「震災後の東京、新エネルギー市場へ」
代表取締役を務める関口氏は「江戸っ子」を自認しつつも、米国ゼネラルエレクトリックや英国ビクトレックスなど外資系エンジニアリング・化学企業で10年以上の経歴を持つ国際派ビジネスマンだ。REC社の日本事業は、直販以外にもパートナー企業や販売代理店を介し、幅広いチャネルで主にメガソーラーや産業向けにパネルを提供している。
同社が「なぜ今、震災後の日本に進出するのか」と問われれば、「今だからこそだ」と答えるだろう。新エネルギーへの意識が高まり、東京都は太陽光を含む再生可能エネルギーの更なる導入拡大を表明した。2012年に日本市場に参入したばかりの同社だが、メガソーラー案件の受注に成功して以来、REC社の世界売上高の3割が日本市場向けとなるまでに成長した。新市場が生まれ、オリンピック需要も予測される今、欧州での実績を持つ同社が東京へ本格進出するのは当然の帰結とも言える。
東京は巨大な市場であるばかりではない。REC社は今後成長が見込まれる日本国内の産業用太陽光市場におけるニーズを取り込むため、太陽光パネルの新しい研究開発拠点の設置を検討中である。日本の既存産業で生じる先進的ニーズを迅速に汲み上げて、東京で太陽光発電を育て、さらに発展させるというわけだ。
今回、東京都のアジアヘッドクォーター特区の中でも新宿エリアに移転を計画したのは、新宿には都庁があるからという実用的理由による。都心の得意先への足回りの良さや、空港へのバスアクセス、オフィスの選択肢の豊富さやホテルの数の多さも決め手となった。
「都の支援の存在は、本社に東京への投資を説明する際の好材料だった」と関口氏は語る。物件サーチや人材採用、補助金といった具体的な課題に係るアドバイスはもちろん、東京都が外国企業誘致を推進しているという前向きな姿勢そのものが、「なぜ東京なのか」というREC本社の問いかけに対し、分かり易い回答を示す上で説得力を持った。
半導体や電子産業などの分野の経験を有するバイリンガルの技術系専門職を採用する際にも、東京は同社にとって便利な場所である。しかし、関口氏は故郷である東京について、さらに高いレベルの、意欲的な将来像を描く。「まだまだ東京の英語人口は少ない。ごく一部の人間が英語を話すのでなく、いっそ特区内は英語を公用語にするくらいの勢いがあってもいい」。グローバル環境を渡り歩いてきた江戸っ子の志は、大胆かつ高い。
(タミ・カワサキ)